2014年にスコットランド・ファイフにある町、セントアンドリュースに設立されたキングスバーンズ蒸留所。スコットランドも日本も米国も、さらにはインドや中国でも新蒸留所の建設ラッシュが続いていますが、キングスバーンズはそのなかでも要チェックです。日本で紹介されたばかりの限定シングルモルトをためしてみました。
キングスバーンズ ドリーム トゥ ドラム 46%
- 香り…フルーツ缶を感じさせる甘さ。洋梨のコンポート、ヘーゼルナッツ、ピーナッツクリーム。
- 味…軽めのボディながら複雑。チーズのカナッペ、コーンカップとソフトクリーム。後口はレモン果汁入りのショウガ。
- 総評…飲みやすいデトックスウォーターのよう。ライトボディながら、奥から数種の果実もケーキが顔を覗かせる楽しさ。昼飲みに適したモルト。
@LEAP BAR
3回蒸留によるスムースな飲み口が特徴のローランドながら、こちらは2回蒸留です。ラベルに記されている通り、樽構成は1stフィルのバーボンバレル(90%)、1stフィルのSTR赤ワインカスク10%。2015年蒸留&2018年瓶詰めの3年物です。
いやぁ、これはラクに飲めるシングルモルトです。「ラクに」とはリラックスして飲める、という意味で。体調や気分によって、モルトは飲み疲れしてしまうことがありますが、このキングスバーンズはまるで紅茶のように飲めるといってもいいほど心地よい。ブランチやティータイムの供としても、グッドだと思います。
蒸留所の場所はセントアンドリュース。と聞けば、スコッチ愛好家よりもゴルファーにおなじみではないでしょうか。全英オープン&全英女子オープンが開かれ、近代ゴルフ発祥の地ともいわれる誉れ高い場所。
スコットランドで蒸留所が集中するのは主に北部(いわゆるダンディー・グリーノック線が境目)で、現在ローランドは数えるほどしか蒸留所がありません。実はそれこそビジネスチャンス。キングスバーンズ蒸留所建設という事業は、スコッチの本場に現れた未開拓のブルーオーシャンだったのです。
設立者は、2000年にオープンしたキングスバーンズゴルフリンクスでキャディを務めていたダグラス・クレメントさん。ダグラスさんは、コースを供にしたゴルファーたちから「近くの蒸留所に案内してくれ」と頼まれるものの、なにしろ近所には蒸留所がない(比較的近いアバフェルディ蒸留所やグレンキンチー蒸留所に行くにせよ、軽く100km超=所要約2時間)。
スコッチの国に来たゴルファーに、国の名産を産む現場を見せられないのか。ならば蒸留所を造っちまえ、と資金拠出に前向きな常連ゴルファーとともに建造を決意し、付近の農地を入手。金持ちの発想はすげぇとしか言いようがありませんが、さらにファイフの有力氏族で、インデペンデントボトラーを展開しているウィームス家が、ダグラスさんの呼びかけに応じる形でこれに参加したことで、ビジネスが現実化したというわけですね。
起業家とVCの例は日本でもよく耳にしますが、ダグラスさんとウィームス家のような、いわば夢想家と富豪名家が手を組む漫画みたいなストーリー、面白くないですか。こうしたケースはほんの一例であり、ウイスキーのような嗜好品こそ、今後こうしたロマンの現実化がどんどん出てくるでしょうね。