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今はなき蒸留所のシングルモルトに、したたかに酔う。

閉鎖蒸留所のモルトウイスキー

酒屋さんはおろか、モルト専門バーやネット(オークション)でもめったにお目にかかれない希少なモルトウイスキーをいただく僥倖に恵まれました。結論から申し上げますと、素晴らしい、美味しい。語彙力不足を棚に上げて、理屈じゃなくなるのです。そうとしか言いようがないのですが、とにかくメモらないとね。

2020年1月12日のウイスキー講座で。主宰・講師はウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル・根本毅さん。今回(第17回)のテーマは「閉鎖蒸留所のモルトウイスキーを楽しむ」です。冒頭アイキャッチ写真のスコッチ、およびジャパニーズをいただきました。

根本さんのお話とテキストによりますと、蒸留所がウイスキーの生産をストップさせるのは、市場の好不況(ウイスキーそのものの人気・不人気の波)、生産国の政策を受けての生産調整・操業停止、放漫経営や粗悪なウイスキー生産による自滅などが要因。一時閉鎖(モスボール)で済めばまだマシで、廃業に至ったところも少なくありません。

ウイスキーの魅力であり厄介でもある点は、一度減産あるいは生産停止すると、挽回に時間がかかることです。今のウイスキー熱を正確に予想できたメーカーはどれくらいあるでしょう。この点を解決する画期的ソリューションがあれば、それこそノーベル賞もの。手をこまねいているうちに、竹鶴も市場から姿を消しそうです。

閉鎖と再開を繰り返している生産者もあります。日本では「駒ヶ岳」で知られる本坊酒造のマルス信州工場が、2011年に復活したばかり。熱狂的なファンがいるアイラ島のポートエレンは2020年、満を持して再稼働しそうです。大手ボトラーが買収して復活させたベンローマック(ゴードン&マクファイル社)や、地元キャンベルタウンのブランドを復活(ロングロウ、ヘーゼルバーン)させたミッチェル家の例もあります。

ぼくはあまり意識していませんでしたが、ミッチェル家のスプリングバンクといい、アードベッグ(現MHLV所有)やスキャパ(現ペルノリカール所有)といい、一度閉鎖の憂き目に遭いながらも復活した蒸留所もあります。今後その流れは加速するのか、減速するのか。

願わくば、復活させるにしても、かつての質を下回る残念な商いは勘弁。はい、ぼくは「かつての質」など知る由もありませんが、銘柄名だけで需要を当て込んで、易きに流れてほしくないだけです。ブランドへの背信行為だし、刹那的にヒットしたとしても長期的には衰退してしまうでしょう。過去と未来、どちらも大切にしてほしいのです。

さてさて、いただけたのは6アイテム。以下いつものように走り書きします(あくまで個人的な主観です)。

1. ローズバンク(Rosebank)1991-2007 16年 55.5% TNOシリーズ BourbonCask

  • 香り…屋根付きの植物園にいるような爽やかさと温かみ。洋梨、青りんごなどが長く支配。
  • 味…ライトボディながら複雑。端緒はクミン、生姜。その後ハイビスカス入りのローズヒップティー。

1993年に閉鎖したローランド地区の蒸留所。ですが、巨人ディアジオからイアンマクロード社がブランド使用権と建物を買収し、いよいよ復活の兆しです。いただいたのはスコッチモルト販売のボトリングです。「TIR NAN OG」とはゲール語で「黄泉の国」、転じて「死(飲)んだら生き返れないよ」という意味だそう。

ローズバンク 1991-2007 16年

2. インペリアル(Imperial)1995-2009 14年 56.1% 1st Fill American oak Barrel for エイコーン信濃屋

  • 香り…控えめで甘い。パイナップル、ドラゴンフルーツなどの南国な果物が続々と出た後、クリーム。
  • 味…コク甘でオイリー。シリアル、生クリーム、ティラミス。

ダイアモンドジュビリー(ヴィクトリア女王在位60年時)の1897年創業に由来。ダルユーイン蒸留所の第2工場として建造されたものの、閉鎖・買収を繰り返す。2015年に跡地にダルメニャック蒸留所が稼働。今後の動向に注目です。

インペリアル 1995-2009 14年 for エイコーン信濃屋

3. ブローラ(Brora)1978-2002 24年 56.0% SMWS 61.13 リフィルBourbonCask

  • 香り…くさやを彷彿させる、ムッと来る厚み。煮出し中の鰹ダシ、ヨードチンキ、茅葺き屋根の住居。
  • 味…ミディアムボディ。燻製バーベキュー。だし汁、生姜、レモン。

ブラインドで飲めばアイラかアイランズのモルトと間違えそうな、磯っぽいモルトです。前身はクライヌリッシュB蒸留所で、1969年から14年のみ操業。まさに幻の銘酒で、現在も高値で取引されています。所有するディアジオは2020年の生産復活を発表していて、小ロットのプレミア品をめぐる過熱が目に浮かびます(ぼくのような小市民には関係ありませんが)。こうしてかつての酒をいただけるだけで感謝です。

ブローラ 1978-2002 24年 SMWS 61.13

4. バンフ(Banff)UDレアモルトシリーズ1982-2003 21年 57.1% BourbonBarrel

  • 香り…ふくよかでひたすら甘い。炬燵のみかん、削り節。
  • 味…オイリーを通し越してドロッとした粘り気。だが意外に軽くてスルスル飲みやすい。チョコレート、麦芽。

テイスティングで参加者の感動の声が上がっていたのが、ゲール語で「子豚」を意味するコチラのボトル。第二次大戦中、独空軍の爆撃にウエアハウスが被弾し、延焼防止のため樽を破壊(!)。辺り一帯に流れ出た原酒を飲んだ動物たちは、どうなったのでしょう。1983年に閉鎖、建物は1991年に取り壊され、現在は跡形もないそうです。

バンフ UDレアモルトシリーズ1982-2003 21年

5. キャパドニック(Caperdonich)1967-1998 31年 48.8% SMWS 38.6 SherryCask

  • 香り…強い。デパートの化粧品売り場のような芳香。レーズンバター、シェリー酒。後半にハリエニシダのような花も。
  • 味…ライトボディで意外にも飲みやすいながら、バラエティ豊かな味。ブドウの皮、柿、多様なスパイス。

ゲール語で「秘密の井戸」を意味する蒸留所(同名のBARが東京・新橋にあります)。1898年にグレングラントの第2工場としてデビューするも、3年後にはウイスキー不況のあおりを受けて操業停止。1965年に再開しキャパドニックという名称に。結局2002年に閉鎖、こんな陶酔感のあるウイスキーを造りながらも今日に至らなかったのは、ちょっとした運命のいたずらとしか言いようがありません。

キャパドニック 1967-1998 31年 SMWS 38.6

6. 軽井沢(Karuizawa)1989-2008 18年 57.1% SherryCask

  • 香り…過剰なほどリッチ。湖と湖畔と森林。ブドウ畑。シェリー酒、貴腐ワイン。
  • 味…コク甘、酸味と深みが綯い交ぜに。ドライフルーツの詰め合わせ、シェリー酒。

1~6まで、根本さんはアイテムをためす順番も考えて組み立ててくださっています。キャパドニックの後に、この軽井沢。これ以上ない締めにふさわしいデザートでした。最後のほうは、酒に溺れてしまい、語彙のなさだけが浮き彫りになる有様。なのに、一巡して「1」のローズバンクに戻ったときは、軽快さが戻ったような感じになったから不思議です。

軽井沢 1989-2008 18年

個人的な好みを強いて挙げるなら、インペリアルがいちばんでしたが、甲乙つけがたいとはこのことで。それにしても異様なほどの陶酔感。かなり酔っぱらってしまい、自宅にとんぼ帰りしてバタンキューとなったのでした。

@Bon Vivant

この記事を書いた人

hiroki「酒と共感の日々」

hiroki

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