桃月庵白酒さんが、ネタ出し2席とお楽しみ2席の計4席たっぷり聴かせてくれる大手町独演会「ザ・桃月庵白酒 其の六」に行ってきました(2020年2月15日/よみうり大手町ホール)。四季それぞれにちなんだ噺が披露される年に一度の会。個人的に苦手な噺もあったのですが、それすらも楽しめました。
苦手な噺とは、この日ネタ出しの一つ「鰻の幇間」。見覚えあるが名前が思い出せない旦那に、ご馳走になろうとするも、連れて行かれた鰻屋で食い逃げされてしまう幇間の噺。落語の噺にはたいていはイヤな人物が出てこないといわれますが、これは例外。下心があったとはいえ、見事に一杯食わされてしまう幇間が気の毒になっちゃう。だから苦手なんですよね。
でも白酒さんのそれは、明るい。トンズラされたと知った幇間が、悔し紛れに鰻屋の女将を詰めるシークエンスなどは、独自のアレンジが入って、気の毒さを感じさせません。ともすればジメッとしてしまいがちなところを、コミカルに展開させます。白酒さんが
聴いているほうも負担がない落語がいいと思っています。幇間の悲哀とか、悲しさはなく、ひどい目にあっても、いいネタがたくさんできたくらいに思って暮らしている人物として描きたいです。
番組のプログラムのインタビュー(大手町独演会 佐藤謙次さん)より。
と話しているのに納得。落語はこうでないと。
もう一つのネタ出しは、白酒さんが年に2〜3回高座にかけるという「らくだ」。フグにあたって死んだ嫌われ者の大男“らくだ”の遺体の第一発見者になった兄貴分が、長屋の住人たちから香典をせびろうと、通りかかったくず屋を使い走りする噺。兄貴分がくず屋を「頭下げて頼んでんだろーっ!」と脅すのが白酒さん流ですが、この日は拳を床にドンっと打ち付ける動作のみで恫喝を表現。さらにブラッシュアップされていました。
個人的には最も好きな噺である「笠碁」と「首ったけ」をかけてくれたのが特によかった。「笠碁」は白酒さんで聴いても、ぼくは泣けてしまうんです。男同士、女同士、男女いずれでも友情を綴った物語には弱いんですよね。白酒さんの「首ったけ」は、若い衆&辰つぁんのいい人・紅梅が、クレームをつける辰つぁんの対応を誤り、火に油を注いでいくくだりが面目躍如。白酒さん以外で喬太郎さんがかけているそうなので、ぜひ一度生で聴いてみたいです。
それにしても白酒さんは、いつもマクラも最高ですが、この日もちょっと書けない内容ですね。白酒さんに限らず、特にまくらはブログやSNSで出すのは難しいなぁ、と最近つくづく……。寄席や落語会に来た人だけの「お楽しみ」とでもいいましょうか(ネットで検索すればわかる時代ですが、ほんとは演目も出さないほうがいいのかもね)。映画のネタバレにも等しいのかなぁと。この辺り、もう少し考えてみます。