スコットランドの東北東、東西約50km四方の内側に、約50もの蒸留所がひしめくスペイサイド。
ウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル・根本毅さんが主宰するウイスキー講座で、そのモルトを楽しんできました。
今回(第21回)のテーマは「スペイサイドモルトウイスキーを楽しむ その2」です。
前回にも増して、素晴らしい体験をさせていただきました。
今回の「その2」でいただいたのは、冒頭アイキャッチ写真のスコッチモルトです。
下記にテイスティングの個人的主観をメモります。
1. トミントール(Tomintoul-Glenlivet) 12y 43% 90’s OB
- 香り…華やかな主張あり。麦芽、スミレの花。
- 味…ライトボディ。ハチミツ、クミンなど若干のスパイス、卵白で後口を感じさせつつ、スッと消える短い余韻
アンガス・ダンディー社所有、リベット地区トミントール所在。
蒸留所はエイボン川支流リベット川最上流、標高350mに位置し、冬場は積雪でしばしば交通が寸断されるという場所に建っています。
2. ザ・グレンリベット(The Glenlivet) 12y 43% Pure Sigle malt OB late 80’s
- 香り…甘さ優勢。エクレア、ヒマワリの種、椿油。
- 味…甘すぎないライトボディ。ブドウ、オレンジピール、後口で若干のスパイス。
ペルノリカール所有、リベット地区所在。
言わずと知れた政府公認第1号(1824年)の蒸留所です。
ブレンデッドスコッチのシーバスリーガル、ロイヤルサルートの原酒。
年間生産量2100万リットルは、グレンフィディック(1300万リットル)、マッカラン(1500万リットル)よりも上。
こちらのボトル、ラベルに「ピュアシングルモルト」を銘打ってあるのがポイント。
2004年以降、この表記は使われなくなりました(カードゥで後述)。
今はニッカの竹鶴が「ピュアモルト」としているのを見かけるくらいですね(この竹鶴も酒屋さんで見かけなくなりました)。
3. クラガンモア(Cragganmore)1988-2006 17y 55.5% Cask Strength
- 香り…入口はやや強いフローラル。その後、果樹園に早変わりし、複雑に交錯。締めくくりはクリーム。
- 味…ディープな温かみ。甘さ強め。リンゴ、シナモン。
ディアジオ所有、バリンダルロッホ所在。
UD社のクラシックモルトのひとつで、オールドパーやホワイトホースの主要原酒です。
クラガンモアは飲みやすく、それでいて複雑な美味という印象。
――だったのですが、こちらはゲキ旨にして、ライトボディのイメージが覆される骨太さ。
あぁ、こういうボトルをもっと出してほしい。
4. カードゥ(Cadhu)1991-2003 21y 54.2% Limited Edition OB
- 香り…ツンとくる入口。ミルフィーユ、昔ながらのカラメルソースたっぷりのプリン。
- 味…やや酸味ががった甘さ。ヴィクトリアスポンジケーキ。
ディアジオ所有、ノッカンドゥ所在。
ジョニーウォーカーの主要原酒として有名です。
このカードゥ、スペインで売れまくったそうです。
あまりに売れすぎて原酒不足化し、2002年に苦肉の策でグレンダランなど他の原酒をヴァッティングさせた「ピュアモルト」を発売。
ところが、スコッチウイスキーアソシエーション(SWA)がこれに待ったをかけ、2004年に商品を回収。
2009年に「ピュアモルト」表記を禁止する法改正がなされました。
革新的な発想と言えますが、まぁ「ズル」と取られたんでしょうね。
スコッチ業界全体の品質の信頼性に影響しているわけで、この厳格さを飲み手が否定できるはずがありません。
5. マッカラン(Macallan)1986 18y 43% SherryCask(旧Vintage表記ボトル)
- 香り…主張あり。ナッツ前面、シェリー酒、レーズン。
- 味…軽やかで飲みやすい。ナッツ、ベリー系のフルーツ、煩わしくない渋み、樽っぽさ。
エドリントングループ所有、クライゲラキ所在。
「ファイマウスグラウス」や「カティサーク」の主要原酒としてもおなじみ。
ですけれども、そんなブレンドの原酒ではなく「シングルモルトのロールスロイス」という、やたら高級な代名詞が先行しがちです。
また、スパニッシュオーク樽使いの権化のようなマッカランですが。
2004年には、バーボンカスクとシェリー樽2種を使用した「ファインオーク」をリリースし、以後もノンエイジはじめフレキシブルなラインナップを展開しています。
いただいたマッカラン18年は、「古き佳きマッカラン」といった様相。
リッチでいながら、押しつけがまさしさは無く、うっとりする余韻が楽しめました。
6. バルヴェニー(Balvenie) Tun1401 Bach5 50.1% OB 2012
こちらは別記事で触れています。
「モルト人気の今は、どうしても早く大量に造ることが優先される。でも、昔は丁寧に作っていたんですよね」
という、根本さんの何気ないひとことに納得。
現在のシングルモルトは、より多くの飲み手の気を引くように、あえて酒質の軽さで売らんとしているのは、確かにある気がします。
それが売れるということは、時代の趨勢であり要請であるということ。
それを否定するつもりは毛頭ありません。
けれども、モルトウイスキーがさほどメジャーな人気でなかったがゆえに、より高品質のシングルモルトなりブレンデッドなりが造られていたという側面。
蒸留所も、大手を除けば、多少なりとも余裕をもって造っていたんだろうなぁ、と。
そう考えると、現状流通しているものの良し悪しが脳裏をかすめます。
だからこそ各メーカーは、イベントやプレミアム品としてシングルカスクや、スペシャルボトルのリリースをするわけで。
人気ゆえに生産が追いつかず、老舗が増産に動くだけでなく、次々にクラフト蒸留所が建っている現状。
品質のスペイサイドか、量で勝負のローランドか……。
今回いただきながら、そんな18世紀半ばの密造酒時代の拮抗が、今のモルト熱狂時代に再現されているような気がしました。
ご一緒したみなさま、今回もありがとうございました。
@Bon Vivant