ウイスキーフェスティバル2019 in 東京では、ブース巡りの楽しみだけでなく、蒸留所やボトラー関係者の話を聴ける貴重な機会もあります。今年はスペイサイドのシングルモルトで、名高いグレンファークラスのセミナーに出席してきました。
講師はグレンファークラス6代目、ジョージ・S・グラントさん。セールスディレクターとして、現在90カ国以上に輸出されているファークラスのさらなる拡大を担い、1年の半分は海外で過ごしているそう。
セミナーは15時30分から1時間。けっこう酒が入っているのか、どこか眠たげなグラントさんの話を聴きつつ、手元に配られた5つのサンプルから成る「テイスティングキット」を開きます。下写真左端が製麦を終えたモルト(乾燥麦芽)。噛んでみると一瞬の塩気と苦みの後に、フワッとした甘さを感じます。味わいはひとことでクラッカーのよう。
左から2番目がグリスト(粉砕麦芽)で、ここから糖化工程を経て麦汁が採取されます。グレンファークラスの場合、グリスト16.5トンに水を加え、そこから92,000トンの麦汁を取り出せるそう。左から3番目は2回蒸留後のニューポット(63.5%)です。
本記事最上部アイキャッチ画像の右から2番目は、2001年のファミリーカスク(2018年7月に瓶詰した17年物)でシングルカスクのカスクストレングス。同アイキャッチ右端は日本限定12年物のカスクストレングス(2ndバッチ)58.3%です。
グレンファークラスは100%シェリー樽熟成で、樽の比率は1stと2ndが60%、3rdと4thが40%。スペインのホセ・ミゲル・マティーニ社から購入し(1樽およそ1,000ドル)、現在はオロロソシェリーの500lバットと250lホグスヘッドを使用しているそう。
なかでもグラントさんのお気に入りは2ndフィル。曰く「1stフィルの樽はシェリーの特徴にフォーカスし、競走馬が目隠しするように視野が狭くなってしまう」ゆえに影響力のバランスを鑑みて、ということらしい。上述のファミリーカスクは2ndフィルの樽使用で、グラントさんが特にお気に入りなのだとか。
2001ファミリーカスクも、12年カスクストレングスも素晴らしい出来であることに間違いありません。が、個人的には意外に12年が心地良かった。両者の違いについて「ファミリーカスクはオリーブオイルのような粘膜が感じられるのに対し、12年カスクストレングスはパワフルでスパイシー、キャンデーフロスト(綿あめ)のように砂糖の膜が張っているようなんだ」とグラントさん。なるほど納得です。
さらに面白いなと思ったのは、世界どこに行っても質問されるという飲み方についてグラントさんが寛大だった点。「好きなように飲め。だけど痛みを感じるような飲み方は止せ」という意外な答え。どうも本場スコットランドの作り手はストレート至上主義のイメージがありますが、必ずしもそうでないと改めて実感。
ファークラスは年間販売本数約200万本。40棟ものウエアハウスに約10万樽を保有。売り手からすれば、今のウイスキー人気が沸騰しているうちに、さらなる市場拡大とファン獲得につなげたい。飲み方の押しつけなんて、してる場合じゃないのは当然でしょう。
それでいて1955年~2004年までヴィンテージをストックしているのにも、自社の歴史とブランド価値を軽々と切り売りしない矜持を垣間見ます。個人的に最もおなじみで、お気に入りのシングルモルトのひとつですが、さらに好きになりました。楽しい勉強の機会に感謝。どうもありがとう。