ウイスキー好きの皆さんは、ローランド地区のモルトウイスキーに対してどんな印象をお持ちですか。たいへん失礼ですが、個人的には「なんか地味」「蒸溜所が少ない」「3回蒸留で造られる印象薄いモルト」とまぁ、総じてネガティブなんですよね。
その印象は間違えでもないけど、正しくもない。2020年3月15日のウイスキー講座に参加し、その歴史とともに認識を改めました。講座の主宰・講師はウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル・根本毅さん。今回(第19回)のテーマは「ローランドモルトウイスキーを楽しむ」です。冒頭アイキャッチ写真のスコッチモルトをいただきました。
スコットランドの首都エジンバラ、人口が最も多いグラスゴーは、スコッチの区分からいえばローランド。根本さんのお話とテキストによりますと、ハイランド地方が反イングランド気質でクラン(氏族)中心に閉鎖社会だったのに対し、エジンバラやグラスゴーでは交易や人的交流が盛ん。ここから産業が振興していったのは自明だったのですね。
実はそれがウイスキーにも表れているのが面白いところ。1784年の発酵醪法(もろみ法)と1788年のローランド免許法で、ハイランドとローランドの区分が明文化され、ハイランドウイスキーとローランドウイスキーという異なる呼称が誕生。対仏戦争や相次ぐ酒税引き上げにより、ハイランドでは密造が横行。麦芽オンリーの原料、ピート燃料を元にした製法と樽熟成を守り、高品質をなんとか密かに維持します。
いっぽうのローランド。カラス麦など麦芽以外の穀物を原料に混ぜ、質的にはハイランドに劣るものの、石炭加熱による短期蒸留で大幅に効率化。その後、1831年の改良型連続式蒸留機の採用や、アンドリュー・アッシャーが開発したブレンデッドウイスキーという新商品がヒットしたことも重なり、ウイスキーは一介の地酒から定番酒へと成長していきます。
つまり「品質とのトレードオフ」で大量生産を可能にし、ウイスキーを世界に広めた礎がローランドというわけで。スコッチウイスキーの歴史の陽と陰、光と影そのものともいえます。というわけで、いただいた6アイテムはすべてローランド。以下走り書きします(あくまで個人の主観です)。
1. キングスバーンズ(Kingsbarns)40manths 46% OB
- 香り…さくらんぼやリンゴの入ったフルーツポンチ、洋ナシ。
- 味…アセロラドリンク、アップルパイやラザニアなど生地のある料理。
スコットランドの貴族であり、ファイフの有力氏族であるウィームス家が所有。その名もキングスバーンズ=「王様の穀物倉庫」というのがニクい。ひじょうに心地よい飲み心地で、前回飲んだときと全く異なる感想を抱きました。ちなみに熟成年数は「40年」ではなく、40カ月(3年あまり)ですからご注意を。
2. グレンキンチー(Glenkinchie)10年 43% OB
- 香り…みずみずしい柑橘。ナシ、グレープシードオイル。
- 味…ライトボディ。バター、福豆。やや塩辛さも伴う。
こちらは現行の12年と1世代前のボトルだそうで、2000年ごろに流通していたとみられます。ディアジオ所有で、クラシックモルトのうちのひとつ。ヘイグの主要原酒です。
3. ブラッドノック(Bladnoch)16年 55% non chill-fillterd OB
- 香り…木の香り前面。ストーブのついた材木工場、木工用ボンド。
- 味…メロウでスイート。甘味強い。ぎゅっと絞ったミックスベリー。
思わず、講師の根本さんに「蒸留は何回ですか?」と聞いてしまったのがこちら。ローランドというと、個人的に「3回蒸留」と条件反射で思いがちですが、もちろん2回蒸留のウイスキーもあります。カテゴライズが嫌いと自分で言っておきながら、その先入観に囚われていたのが自分と反省しきり、なボトルでした。現行の所有はデヴィッド・プリオール。現行のブラッドノックと比べると、全くの別物ではないかと思うほどです。
4. オーヘントッシャン(Auchentoshan)21年 43% OB
- 香り…鶏小屋、真鍮のアクセサリー、銀みがき。後半におがくず、花火の火薬。
- 味…デトックスウォーターのようなスムーズさ。その中にナッツ、塩味のポップコーンが。
今では巨大資本ビームサントリーの傘下に収まったオーヘントッシャン。スコッチの3回蒸留で有名です。こちらの21年は現行の1世代前のオフィシャルボトルですが、記憶にある現行との極端な差は感じませんでした。リアルタイムで飲み比べるチャンスがあればいいのですが、難しいかもしれません。
5. リトルミル(Littlemill)1990 Vintage 20年 53.6% TIR NAN OGシリーズ
- 香り…おしろいのような香りが入口。六時屋のタルト、サングリア。
- 味…砂糖漬けプルーン、ホワイトチョコレート。
思わず「美味しい!」と口から漏れてしまったのがこちら。1772年の創業以降、150年の間に経営者が10数人も交代するなど、浮沈の激しい蒸留所だったようです。ゆえに品質にも影響があったであろうことは想像に難くなく、2004年に蒸溜所は焼失してしまいます。とはいえ、こちらのボトルは素晴らしい仕上がりで、スコットランド最古の蒸溜所の面目躍如といったところ。
6. インチマリン(Inchmarin)2004-2019 14年 55.1% Recher AmericanOak Butt Out-turn568
- 香り…ハーシーのチョコレート、アルミホイルのカルメ焼き。若干の燻製卵。
- 味…ミルクチョコレートのアソート。果実の入った辛口のウスターソース。
こちらは東京・新宿3丁目「BAR LIVET」のオーナー、静谷和典さんに向けて詰められたボトル。所有はロッホローモンドグループで、自社のロッホローモンド、インチマリンなどを主要モルト銘柄を最近リブランドして売り出しています。さすがにマスター・オブ・ウイスキーの静谷さんリコメンドとあって、半端ないキックに襲われます。飲み飽きた呑助のための、ディープな個性派ボトルでした。
酔っぱらいながら、ローランドの認識を慌てて修正した夜でした。2005年以降、建設中のものや、小規模なクラフト蒸溜所も含め、20もの蒸溜所が新たに稼働しているそうです。続々とローランドに上がる雄叫び、楽しみです。
@Bon Vivant